「――ええ、ご心配なようでしたら、無料の体験講習もございます。そちらで一度授業を受けていただいてから入塾の申込みをされる方もいますので宜しければご検討ください。……はい、では失礼いたします」
伝え忘れたことはないか頭の片隅で確認しながら、先方が受話器を置いたのを確認して優も電話を切る。問い合わせがあったことを忘れないように簡易名簿に名前を打ち込んで、ふうと息をついた。
「斉藤さんって」
「うん?」
事務室の端で向かい合って座っていたアルバイトの大学生に声をかけられて顔を上げると、やけに感心した表情で見られている。
「電話対応、本当に丁寧ですよね」
「そうかな」
「はい。私が保護者の立場だったら、塾なんてお金かかるし、子供が馴染めるか不安になりますけど、斉藤さんみたいに『大丈夫ですよ〜』って優しく言ってもらえたらとりあえず入れてみようかなって思いますもん!」
「ありがとう」
「私も見習います」
電話対応は相手の顔が見えない分気を付けろと口酸っぱく就職時に指導されているから、年下の大学生であっても、そういう風に認めてもらえるのは嬉しくて、優はにこりと笑った。
そうして笑みを浮かべながら、そう言えば久しぶりに笑ったな、と気付いて胸が痛んだ。
ルルル、とまた呼び出し音が鳴って、大学生が受話器に手を伸ばそうとするのを「いいよ、あたしが出る」と制して先ほど置いたばかりの受話器を取った。
何故笑うのが久しぶりだったのか、何故胸が痛むのか、考えてしまうことから逃げだすように。
「斉藤さん、大丈夫ですか?」
問われて、受話器を片手にツーツーと通話終了音が流れるのを聞いていた優ははっとした。慌てて受話器を置いて顔を上げれば、彼女が心配そうにこちらを見ている。
「もしかしてクレーム関係ですか?」
「あ、ううん。違う違う。ごめんね、ぼうっとしてて」
例に漏れず一部の口うるさい保護者に悩まされている学習塾では、こうした会話も時折交わされる。アルバイトである彼女よりも優の方が対応力が高いため、よくその手の電話対応を請け負っているが、先ほどの電話は単なる生徒の欠席連絡だ。それなのに通話が終わって尚ぼんやりしていたから、心配してくれたのだろう。
いけない、と優は仕事に集中するよう気持ちを切り替えた。
考えないようにしているのに、そう意識すればするほど、直視したくないことばかりに目を向けてしまう。
いつも通りに仕事をしているつもりでいて、最近失態が増えているのが自分でも分かっていた。
校舎長の嫌がらせは相変わらず続いており、優は彼に対して愛想笑いすら上手く浮かべられなくなった。仕事は増える一方で、肝心の事務員としての雑務に時間をかけられず、優の席の後ろにある棚は本部から配布されたプリントが山積みだ。ここしばらく通常の退勤時間に退勤できたためしがない。
その上、家に帰っても食事して寝るだけなのに、寝つきが悪くて寝不足気味だ。
シズレー、と最早癖になった口の中での祈るような呼びかけをして、優は生徒の欠席を報せるメモを作ることに取り掛かった。
「――あれ?」
ふと、大学生が怪訝そうな声を漏らしたことで、優は手を止める。彼女は優が指示を出した配布物の仕分けをしているところだ。
「どうかした?」
「斉藤さん、……これ……っ」
彼女が慌てて優に差し出したのは、冬季講習の案内チラシだった。
そういえば先ほどの電話でも無料講習の案内をしたが、一体それの何が、と問いかけようとして、優も気が付いた。
「嘘……っ!」
チラシに書かれた申込み締切日は、今日から一週間先の日付だった。優の勤める学習塾では曜日によって通う生徒の学年が異なる。故に、こうした臨時講習の案内は、通常締切の二週間前には配布を終えるよう本部からの指示がなされている。それなのに本来一週間前には配り終えていなければならないチラシが目の前にあるのだ。
慌てて自身のパソコンで本部の指示メールを確認すれば、確かに先週の始めには指示が出ていた。
一瞬にして血の気が引くのを、優は感じる。
――優のミスだ。
今からでも今日来ている生徒たちの分だけは配布できるよう資料をセットするか。それよりも本部に事情を説明して申込み締切を延ばしてもらえるように頼めないか。いや――まずは、上司である校舎長に事態を報告しなければならない。
言いたくない、と反射的に思ったことに、優は一瞬硬直した。
校舎長と話をしたくない。こんなミスをしたと知れたら、また何を言われるか分からない。けれど、これは紛れもなく優の犯した失態だ。本部からの指示メールは優と校舎長の二人にしか送られてこないし、あくまで校舎長へは参考送付で、事務を取り仕切る優が見落としたのが原因なのだから。
でも、と、優は唇を噛んだ。
今度は一体どんな風に罵倒されるのかと思うと、胃が引き絞られるように痛んで、叶うならばこの場から逃げ出したい。
「さ、斉藤さん……」
青ざめて硬直する優に、指摘した大学生がそろりと声をかけてくる。彼女も勿論目の前で頻繁に繰り広げられる校舎長の嫌がらせを知っているから、優の心情を慮ったのだろう。どうしましょう、と顔に書いてある。
その声に気を取り直して優はすうと息を吐く。
起こってしまったミスはもう取り戻せない。
今優がしなければいけないことは、上司の罵倒に怯えることでも、事態をごまかすことでもない。仕事をきちんとしなければならない。
「ごめんね。気が付いてくれてありがとう」
礼を言った上で、時間を確認する。今日の授業が終わるまでまだあと一時間はある。
「今日は中学三年生か。生徒数は……、うん。資料は全部で十種類ね。申し訳ないけど、とりあえず七十セット作ってもらえる? 次の休み時間に入ったら校舎長に報告するから、急いでやろう」
「え、でも、斉藤さん、大丈夫ですか。その……校舎長」
「……大丈夫。あたしのミスだから、何を言われても仕方がないから」
本当は少しも大丈夫ではないが、いくつも年下の大学生に泣き言など言っている暇はない。彼女の机に置かれたチラシ類を半分引き取って、大きなサイズのものを片手で半分に折りたたみながら、優は受話器を上げて本部への内線を鳴らした。
結局校舎長から山ほどの罵倒と嫌味に晒され、本部からも苦言をもらいながら、何とか当日来ていた生徒たちには配り終え、翌日分もセットできたところで、時刻は零時を回っていた。
「斉藤さん、いつまでいるつもり? そろそろ鍵閉めたいんだけど」
苛々とした声で校舎長が尋ねてくるのに、申し訳ありません、と今日何度目かもわからない謝罪を繰り返して、優は小さくなった。アルバイトの勤務時間いっぱいまで作業してくれていた大学生はとっくに帰ったし、授業を終えて残務処理をしたほかの講師たちももう帰宅の途についている。事務室には校舎長と優の二人だけだ。
校舎長は優に淹れさせた珈琲を片手にギィギィと耳障りな音を立てて椅子を揺らしている。
作業を手伝って欲しいなどと、逆立ちしても言えなかった。
「まったく、信じられないな。どうやったらそんなミスができるんだか。あーあ、もう土曜日じゃねえか」
その言葉で、ああ、と優は卓上カレンダーに目をやった。
そうか今日は、いやもう昨日になるが、金曜日だったのか。これまでなら決して忘れもしなかった大事な曜日を忘れていたことに、今更気が付く。
次の金曜日まではあと七日か、と考えかけて、優はカレンダーから視線を外した。七日後にまたくる金曜日に、シズレーと会うことはない。
「さ、い、と、う」
ぼんやりしたことに気付いたのか、やけに強い語調で、おまけに常にない呼び捨てで名前を呼ばれて、優は慌てて立ち上がった。
すぐ目の前に見るからに不機嫌な顔をした校舎長がいる。責められる理由がある今は、彼の表情は恐怖の対象にしかならなかった。目も合わせられない優に、校舎長が小さく舌打ちする。そのことに体が震えて、優はわずかに俯いた。
「斉藤さあ、ほんと、どういう神経してんの? バイトにも俺にも迷惑かけて、謝れば済むとでも思ってる?」
すっかり呼び捨てだ。いつもの優であれば拳を握りしめるくらいのことはしただろうが、ただただ「申し訳ありません」と細い声で繰り返すしかできなかった。
バシン、と鋭い音がして、一瞬遅れて頭頂部に痛みがやってくる。
何をされたのか分からなくて硬直するばかりの優の視界に、黒い出席簿が見えた。
――ああ、あれで叩かれたのか。
以前の優なら睨み返すくらいはしただろうが、睡眠不足と常にないミスで精神的に弱っていた優は、上司に叩かれたことに特に何も感じることができなかった。そんな自分を、不思議にも思わなかった。
またバシンと頭を叩かれて、その勢いに身体がふらつくのを何とか留まる。
「あーあ、ほんっと使えない事務員だな」
何十年か前は、この塾でも宿題をやってこなかった生徒にこうして出席簿で頭を叩くことなど、よく見られた光景だったらしい。だが今の世の中それは許されないし、生徒ではなく部下にすることだって勿論この塾では禁止されている。その鬱憤を晴らすように強く叩かれるのを、優はまるで他人事のようにぼんやりと受け止めていた。
帰りがけ、ふらふらとプラットホームを歩いていた優は、立ち止まって黒々とした線路を見下ろした。
パァンと高い音を立てて電車がホームに入ってくる。その明るさに目を細めてふと足を踏み出そうとする。
仕事に行きたくない。家にも帰りたくない。そこまでひどいミスを犯しただろうか。また叩かれるのだろうか。いっそ飛び込んでしまえば楽になるだろうか。
「……シズ、助けて」
呟いて、優ははっとした。
――死んだらもう二度とシズレーには会えない。
立ち止まって、ははは、と乾いた笑みを漏らし、優はゆっくりと停車する電車を眺めた。
週末を挟んだ翌週も、来る日も来る日も残業と校舎長の嫌がらせを受け、金曜日になる頃にはすっかり身体が重くなっていた。
徹夜しても平気だった十代の頃とは違って、もう化粧でも顔色の悪さを隠せない。
さすがに体力の限界を感じて何とか十一時前には仕事を終えた優は、帰りがけに寄ったコンビニのウィンドウに映った自分の姿に、我ながらぎょっとした。シズレーはいないと分かっているから以前とは違って化粧直しはしなかったが、それにしてもひどい顔だった。
こんな顔を見たらシズレーはどんな反応をするだろうか。「婦女子は身だしなみに気をつけるべきだ」とかまたどこぞのロッテンマイヤーさんのようなことを言うだろうか。いや軍人ではあるが騎士道を重んじる彼のことだ。女の顔の如何について口出しすることは決してしてはならないとでも思っているかもしれない。
くだらない妄想におかしくなって笑いたくなり、慌てて唇を引き結ぶ。
簡単に済ませられるよう、おにぎりとサラダだけを買って、優は身体を引きずるようにして帰途についた。
ああ、もう十一時半か。心なしか細くなった手首につけていた腕時計を見下ろして、部屋の鍵を開ける。
ほんの少し前までは、金曜日のこの瞬間が待ち遠しかった。
鍵を開けるのももどかしく、パンプスを玄関に脱ぎ捨てて寝室へ走ったものだ。
「シズ」
もう外ではなく家の中だ。思い切って、優はその名前を口にした。
勿論呼びかけに応じる声などなく、朝出ていった時と何ら変わりない狭い部屋が暗く待ち構えているだけだ。
「シズ」
それでも優はもう一度、そっと名を呼んだ。
そう言えば、とふと過去のこと思い出す。
物騒な初対面の後、今度はシズレーの部屋に足を踏み入れた時、二人して揃って頭を抱えたものだが、そこで初めて互いに自己紹介をした。
シズレー・オトロードという、ザ・洋風な名前に妙な感銘を受けながら、『シズって呼んでもいい?』と尋ねた時の彼の反応ときたら、優の中でのナイスリアクションの上位に入るものだった。その親密な呼びかけに美マッチョが戦慄いて戸惑ったのだ。
『こっちの世界ではあんまり言い慣れない響きだし』と嘘でごまかして押し通したのだが、本当は単に好みのド真ん中をゆくシズレーと少しでも親しくなりたかったのだ。
「……忘れてたなあ」
あのくすぐったいような気持ちも、すっかり打ち解けたことで忘れていた。
そうだ、自分は彼と親しくしていたかったのだ。
それなのに彼と向き合うことから逃げ出した。
その結果が、この薄暗い部屋である。
先日のミスからずっと、自分がマイナス思考気味であることは勿論承知の上で、優はがさがさとビニールが擦れ合う音を鳴らしながらDK部分へ足を踏み入れた。
つい先ほど、食べるために買ったばかりだというのに、全く食欲が湧かない。それよりも何も考えずに眠りたい。明日は休みだから昼まで寝てしまおう。でも化粧を落とさないと。シャワーを浴びて服も脱がなければ――。霧散していく考えをぶつぶつと口にしながら、優ははたと動きを止めた。
「シズの服……」
ダイニングの椅子の背にかけた濃紺の軍服。彼が置いていったそれは、始めは優の寝室にたたんでしまっておいたのだが、いつからか寂しくて椅子の背にかけていた。異界の縫製技術はシズレーによると現代より劣っているそうなのに、職人により仕立てあげられたそれはこちらの一級品と言っても遜色ない。
肩部分につけられた金の房飾りをそっと撫でて、うっとりするほどの手触りに優は目を閉じた。
ちょっとストーカーっぽいかしら、などと思いながら、ジャケットを手に取りその足で寝室にしている部屋へと向かう。
最近の寝つきの悪さも、このジャケットにくるまって寝てみれば良くなるような気がしたのだ。
他人のものであるだとか、皺が寄るだとか、普段の優であれば弁えている様々な要素は、このとき彼女の頭にはなかった。ただ眠い、それだけだったのだ。
そして寝室スペースに踏み込んだその時。
疲れた目に突き刺さる集合灯の灯りに、優は思わず腕で顔をかばった。
「――え?」
皺のない白の壁紙と、そこに這う灰色の蔦模様。飴色に輝く調度品。大きな寝台にはぴんと張られた真っ白な敷布。丁寧に掃き清められた床には塵一つない。
「ここ、は、」
そんなはずはない、と優は目を瞬いた。
確かに今日は金曜日で、土曜日になるまでまだもう少し時間がある。
だがシズレーは遠征で三月は戻らないと言っていたではないか。
部屋が繋がる条件は三つ。金曜日であること、夜の九時から十二時の間であること。そして、部屋の主がいること。
もう何度も訪れたから間違いない。ここは、シズレーの寝室だ。
「そんな」
どうして、と優は呆然と立ち尽くした。
もしや自分でも気付かない間に寝落ちしたのだろうかと思いつく。あまりの残業続きで寝たことにさえ気付かなかったとか? その上で自分に都合の良い夢でも見ているのだろうか、と。いやもしかすると先週思い余って線路に飛び込もうとしたことが現実で、本当は飛び込んでいて、もう自分は死んでいるとか? そして、いや、と首を振った。
ストッキングごしに感じる床の冷たさは、これが現実であるとひしひしと伝えてくる。
冬に向かうこの時期、異界の建物は石造りが基本なのか、靴を履いていないと刺すような冷たさを感じるのだ。毎週の逢瀬のたび、実は冷え性な優はシズレーに「足が冷える!」と文句を言っていた。
それに手にはシズレーの軍服を持ったままだ。羽織ろうとした形のまま、中途半端に肩にひっかけられている。
「……夢、じゃない」
「――失礼」
部屋に踏み込んだ時のその場で立ち尽くしていた優は、突然投げかけられた第三者の声に、びくんと大きく震えた。
慌てて振り返って見えたものに、やはりこれは夢だろうかと絶句する。
そこにいたのは、シズレーをも上回る絶世の美女、いや美青年だったのだ。
美しさのメーターが振り切れているな、と馬鹿げたことを考えながら優は疲れた頭でまじまじと青年を見つめる。
シズレーの瞳の色は灰がかった紫色だったが、目の前に立つ彼はそれよりももっと鮮やかな紫色で、現実離れした美しい双眸に魅入られる。コスプレ好きの友人ならば「フォトショ効果か!」とでも叫んだだろうか。だが彼は画像としてではなく、現実にそこに立っている。
彼は微動だにしない優に不審そうに柳眉をしかめ、そんな表情さえ美術画のようで息を呑んだ。
「……失礼、貴女のそれは、シズレーのものでは?」
それ、と指された先が、肩にかけていたシズレーの軍服だったので、今更ながら変態じみた行動にさっと顔が赤らむのを感じて、優は慌てて軍服を脱いで頷いた。
「あ、すみません、これは、」
「シズのものです」と続けようとして、優は口を噤む。上着を脱いだ下の服装に、彼の表情が険しくなったのを見て取ったからだ。
まずい、と優の鈍い危機意識でもひしひしと感じた。
疲れて帰宅したばかりだったから、優の身に着けているものはいつもの仕事用のスーツである。シズレーと会えなくなってからスカートを履くのはやめていたので足を出していないパンツスタイルではあるが、この服装は確かシズレーによると、異界では見慣れないものなのだ。それに先ほどまで大きな軍服を羽織っていたから気付かれなかっただろうが、優の髪はこちらの世界の女性の上流階級にはありえない短さのはずである。
初めてシズレーに会った時、すわ不審者かと斬りかかられたことを思い出して肝が冷えた。
明らかに日本人ではなく異界の住人である彼は、束の間見分するようにじろじろと優を見ていたが、ふと視線を外して小声で呟いた。
「……あいつの趣味は分からんな……」
え、趣味!? 趣味で済む問題か!? と突っ込みたくなる気持ちを抑えて、優は無言を貫いた。下手に突っ込んで自身の怪しさを主張するほど愚かではない。このスーツもシズレーが優に与えた奇妙な服と勘違いしてくれたのだろうか。
「……貴女の名は?」
そのまま答えてもいいものだろうか、と少しだけ悩んでから、優は彼を見返して洋風に名乗ることにした。
「優。……優、斉藤といいます」
「サイトー? 聞かない家名だな」
そりゃそうでしょうね、と思いながら優は慎重に口を開いた。
「あの、失礼ですが……」
「ああ、失敬。俺はヘンリック・ロージアン・ダン・レビネルという」
長い! と喉元まで出たところで何とか堪えたのは賢明だっただろう。そして忘れないように彼が名乗った名前を頭の中で繰り返した優は、眠さで働かない思考力であっても、ふと引っかかりを覚えた。彼の名の一部に聞き覚えがあったのだ。
シズレーは確か、『レビネル皇国』の『皇国軍第二騎兵隊の隊長』だと言っていた。
――レビネル?
優の手首につけたままだった腕時計の長針と短針が、耳に拾えないほどの小さな音を立てる。
二つの針が重なり合うその音は、日付が変わったことを示す音であった。