「ロシオルっ!?」
殺風景な騎士の稽古場で響いた凛華の高い声に、その場で自己鍛錬に励んでいた勤務外の騎士たちは思わず声の方へと視線を向けた。
そして彼らはそれぞれ動きを止める。剣を振り上げたままで固まる少々間抜けなポーズの者もいた。
アルフィーユ最強騎士と謳われ、どんな強豪な相手をも軽々と倒してきた彼らの直属の上司でもあるロシオル・カナルツが。
剣の修行を積んでいる騎士たち数人を相手にしても、一本も取られることなく次々と打ち倒す、あの、最強騎士が。
漆黒の髪の少女に一本取られていたのだ。
これにはその場の騎士だけでなく、凛華自身もひどく驚いていた。
自分の短剣によって払われたロシオルの剣が、がしゃんと乾いた音をたてる。呆然と短剣を手にしたままで立ち尽くし、凛華は師匠に目を向けた。漆黒の瞳を大きく見開き、信じられないという風に。
稽古を始めた時はいつも通りの厳しい師匠だった。今日も一本も取れないだろうと覚悟をしていたのに。
下からの攻撃に入って師匠を見上げた時、ふっと彼の防御が緩んだのだ。とてもロシオルらしくもない隙だった。
「ロシオル、どうかした? 具合でも悪いの?」
あまりにも呆気なく師匠の剣が手から離れてしまったので、気分でも悪くなったのかと心配そうに凛華は声をかける。
こんな風に勝ちたかったわけではないのだ。いつものように強い師匠を倒したかったのに。こんなのは勝ちの内に入らない。
「……悪い」
そう言うとロシオルは転がった剣を拾い上げ、かちんと鞘におさめた。
再び凛華がショックを受ける。
今、ロシオルは剣を、収めた。
鞘に剣を収めてからロシオルが振り返ると、凛華がひどく驚いた表情で固まっていた。
そこに先ほどまで剣を交わしていた時の表情はない。
ロシオルは短いため息を漏らした。
具合など悪くない。
そう答えるべきなのだろうが、では何故隙ができたのかと問われると答えられそうになく、口を噤んだ。
今日は接近戦に備えた訓練をしていた。長剣と短剣だと、短剣の方が不利であるが、相手の間合いに入りさえすれば勝つこともできるのだと、教えて。身をかがめて動く方法や、時折出来る隙を口で注意しながら、あしらっていた。
けれど。
不意に上手く懐に入り込んだ時の凛華に、動揺した。
凛華の使っていたものは、彼女の肘から指先までくらいの短剣だった。
それで攻撃するには随分と接近しなければならなくて。
稽古だからと躊躇もせずに近づいてきた凛華の顔が、すぐそばにあって。
不意に届いた甘い香りに、真っ直ぐに見つめてくる漆黒の瞳に、どきりとした。
「リンカ……悪いが今日はここまででいいか?」
何気なく言われたその言葉は、雷が近くで落ちるよりも凛華を驚かせた。
聞いた事のないものだった。
いつもは、凛華が疲れたから休もうと言っても全く耳を貸さなかったこの鬼師匠が、自分から稽古を切り上げようと言うのである。
先ほどから二人のやりとりを遠巻きに見ていた騎士たちも、顎が外れんばかりに口を開いて驚いていた。彼らは直属の部下なので、凛華よりも上司の性格はよく知っている。実は勤務外はこうして鍛錬しているのも、少しでも腕が落ちようものなら最強騎士直々の稽古をつけられてしまうからなのだ。その無表情な剣さばきと言い、容赦ない攻撃と言い、とてもではないがついていけない。
とても厳しい上司の言葉とは思えなかった。
「う、うん……。それはいいんだけど……。ロシオル、本当に大丈夫? ベル呼んでこようか?」
「いや……」
必要ないとロシオルが答えようとした瞬間に、稽古場の入り口から別の声がかかった。
「もう来てますわ」
ベルだ。
「ベルっ!」
自分がいた場所からはちょうど対角線の位置に見付けた見事な金髪の親友に、凛華は嬉しそうに声をあげた。
ベルの手にはしっかりと救急箱らしきものが握られていた。
どうして分かったのだろうと凛華は不思議そうにベルを見たが、理由はその後分かった。ベルの後ろから凛華もよく知っている騎士が入ってきたのだ。おそらく彼がロシオルのことをベルに告げたのであろう。
「兄さんのことはわたしが診ますから。皆さんは稽古を続けて下さい。リンカは部屋に帰って今日はゆっくりしてて下さいね」
ベルの言葉は従わざるを得ない響きが含まれていたが、なにぶん物の言い様が穏やかなので、騎士たちはつられて笑顔を浮かべながらまた自分の稽古に入った。
凛華も素直に頷き、稽古場にいた騎士たちに手を振ってから駆け出す。
今日の稽古は短時間だったため、あまり疲れていなかった凛華は軽快に走って行った。
「相変わらずお元気ですわね……」
微笑んで呟き、各々稽古に戻った騎士たちを一瞥してからベルは傍に立っていた兄を見上げた。
「兄さん、情けないですわよ」
きっぱりと言い切られた言葉。
ロシオルは妹に視線をやって、次の言葉を待った。この妹が「情けない」だけでは済ませてくれないのを、長年の経験で分かっている。
「リンカが陛下にご好意をお寄せになるのはリンカのご自由なんですからね。いくらお師匠である兄さんと言えども邪魔はしちゃいけませんわ」
またため息をついて、ロシオルは額に巻いていた白い汗止めの布を外した。
それが兄が反省する時の癖であることを思い出して、ベルはくすりと笑った。
途端に少しむっとした顔のロシオルと目が合う。
「何だ?」
「何でもありませんわ」
どこか楽しそうな物言いのベルに何度目かのため息をついて、ロシオルは独り言のように呟いた。
「分かってるんだ。……分かってはいるが……な」
未練がましい、と自嘲してロシオルはちらりとベルを見る。
凛華がセシアの気持ちを受け入れた。
情報を伝えたのはこの妹。つい一昨日、にこにこと笑顔で嬉しそうに言ってくれた。あまりの衝撃で食事の手が止まった気がする。
国王と一般の人間が、という驚きではない。
あの少女が、という部分で驚いたのだ。
純粋でどこまでも天然で。傍にいるとどうしても惹かれてしまう彼女。
セシアの気持ちには薄々気付いていた。テニグからアルフィスへ戻る時の彼の行動を目にしてしまったから。
けれど、まさか。そんなことになるなんて。
この情報を知っている人間は王城内でもごくわずかだそうだ。
まさか、評判の良い大国の国王と、「預言された少女」とは言え得体の知れない異世界の少女が恋仲だと、他国に知られるわけにはいかないのだ。豊か故に嫉妬めいた思いを抱える国もある。そんな国に知られてしまえば、それが弱みになってしまう可能性だってないとは言い切れない。
狙われるのは間違いなく「か弱い」凛華だろう。
剣も上達してきた彼女は、けれど外見は無意識に守ってやらねばと思ってしまうほどに頼りないのだ。
よって知っているのは本人たちと国王の側近。それに少女の侍女たちとその兄だけの筈である。「筈」というのは元公爵令嬢までその事を知っているからで、どこから話が流れたのかは分からないが、恐らくは本人たちの様子を見ていれば分かるのだろう。
一人は天然娘なのですぐに顔に出るし、もう一人は少女が関わると何かと人が変わる。
本来であれば王族は感情を表に出してはいけないのだが周りの人間は微笑ましく思い、王にも、「預言された少女」にも何も言わなかった。
つまり、王城内の結構な人数が知っているのである。
邪魔するなと妹に言われたのだが、これでは邪魔する隙もない。
少々がっくりと肩を落としている兄を見てからベルは諭すように静かに言った。
「ちゃんといつも通りに振る舞わないと、それこそリンカに失礼ですわ」
仕方ないではないか。凛華は、ロシオルの気持ちを知らないのだから。
突然師匠の態度が変わったりすれば驚いて戸惑うのは彼女だろう。
「ああ……」
確かに今日のは少し情けなかった。
本人には口が裂けても言えない。
「それとも……」
「ん?」
「シェリに連絡して、家で兄さんが失恋した記念にパーティでもしますか?」
にっこりと極上の笑顔で言うベル。先ほどの微笑みどころではない。ロシオルは「いやいい」と即答した。
とんでもない。このベルと、ベルの他にもいるシェリッサという妹は自分をからかうのが楽しいらしい。出来ればそんな妹は一人にしておいて欲しいのだが、あいにくと妹はベルとシェリッサの他にあと一人いる。
「私情と仕事は別々にしていた……筈だったんだがな……」
稽古場の入り口から見える外の風景を眺めながら言うロシオルに、ベルは先ほどとは違う笑顔でにこりと微笑んだ。今度はからかう時の笑顔ではなかった。
「機械みたいに仕事だけする兄さんなんて大嫌いですわ」
さりげなく強調された「大嫌い」に、一瞬ロシオルが固まる。それから、妹と同じ赤銅色の瞳を細めて笑った。
まったくこの妹には頭が上がらない。
「叱咤に感謝」
「当たり前ですわよ」
えへん、と胸をはって笑うベルにもう一度笑いかけてから、ロシオルはきびきびと動き出した。
もういいのだ。
彼女がいつか見た光そのもののような笑顔で笑っているのなら、隣に立つのは自分でありたいとも思った事もあるけれど、笑ってくれるなら、それでいい。
妹のきつい叱咤激励に感謝して、ロシオルは自分に活を入れた。
とりあえずは仕事だ。
(覚悟しとけよ、リンカ)
今度からの稽古は、今日みたいに手を抜いたりしない。せいぜい鬼師匠を勤め上げてやろう。
口の端をわずかに上げて歩き出すロシオルの後ろ姿を笑顔で眺めてから、ベルも自分の仕事に戻るために入り口に向かって歩き出した。
「全く……手のかかる兄ですわ」
くすくすと笑う。
役に立たなかった救急箱を手の動きに合わせて少し振って、「でも、手がかからなかったらつまらないですわね」と一人で納得するベルであった。
手がかかるけれど。兄はあのままでいいと思う。
「リンカは今頃どうなさってるんでしょうかねえ」
きっと勉強しているか寝ていらっしゃいますわね、と想像しながら星見の塔へ向かって歩いていたベルだったのだが、珍しくその予想は外れていた。
真面目に勉強しているわけでもなく、かと言って疲れを癒やすために寝ているわけでもなく。
それ以前に、漆黒の少女は自室にはいなかったのである。
「セシア」
「ん……」
執務室の広い机に左肘をつき、倒した右腕に顔を乗せて、セシアは目を閉じていた。
凛華はすぐ傍でその整った顔をじっと眺めていた。
セシアの寝顔を見るのはこれが三度目だった。一度目は寝ぼけたセシアにとんでもないことをされて裏返った悲鳴をあげたし、二度目は狸寝入りでひどく憤慨したものだけれど、今のセシアは寝ぼけることもせず、静かに眠っている。
執務室にいるだけあって、仕事中の国王は正装をかっちりと着込んでいた。男性用の正装は生地が硬く、肩も首もとも抑えつけられているはずだから、寝にくいであろうに、疲れているのかセシアはぐっすり眠っているのだ。その寝顔はどこか幼く、思わずくふふと凛華が笑ってしまった。
多分これが凛華やアイルではなく、文官たちであれば、セシアはこんなにも気を許してくれなかったに違いない。
そう思うと、少しずつではあるがセシアに近づいていっているようで、とても嬉しく思う。
仕事中でもいつでも、凛華であれば入って良いよと許可をもらっていたため、扉の前にいた護衛の騎士たちに挨拶をしてから、そっと滑り込んだこの執務室。
ちらりと顔を見るだけでも良かった。
仕事の邪魔をするつもりなどなかった。
無性に逢いたくなっただけなのだ。
「セーシア」
「うん……」
声をかければ、必ず眠気の混じった声が返ってくる。
見た目よりもずっと柔らかな髪に触れると、ぴくりと長い睫が動く。
けれど少しすると、また深い寝息に変わる。
可愛い、と凛華は思った。
いつもセシアに感じるのは、格好いいだとか、大人びているだとか、そんなものばかりなのだけれど、眠っている時のセシアは、幼い少年のようで母性本能をくすぐられる。
「セシア」
どうしてだろう。
セシアの傍にいると、胸が締め付けられるような、切ない気持ちになる。
何度名前を呼んでも呼び足りない。
こんなにも気を許してくれているのに、それだけでは足りない。
「……セシア、大好き、だよ」
狂おしいほどの感情を言葉に代えて吐き出せば、少しすっきりした。
「……ん……」
一人照れながら呟いた言葉に、目を覚ましていないはずなのに、セシアは微かに笑みを浮かべた。
何故だかその笑顔がとても幸せそうで、涼しく笑っている「国王」や、穏やかに笑ってくれる「セシア」とも違っていて。
凛華は、噛みしめるようにもう一度囁いた。
「大好き……」
あの日、セシアからの告白に返事をした日。
あの時はまだ、「好き」や「嫌い」が分からないとセシアに言った。そんなあやふやな言葉で答えてしまう自分を、今思うと少し恥ずかしいと思う。
そう思うようになったのは、「好き」という感情が分かったからだ。
セシアの傍に居て、やっと分かった。
セシアでなければこんな風に切なく感じることはない。
(胸がきゅんとなるって、きっとこんな感じなんだ……)
セシアが、好きだ。
緩みきった顔でセシアの寝顔を見つめていた凛華は、ふと視線を落とした先の書類を見て首を傾げた。
彼が顔を乗せている右腕の下になっている。眠ってしまう前まで、それを決裁していたのだろう。
そのまま置いておいたら皺が寄ってしまうだろうと考え、凛華はそれをそっと引き抜いた。
決裁済と未決済に分けられている書類の、未決済の方に置こうとして、凛華は不意に目に入った文字にぴたりと手を止めた。
セシアの仕事は、アルフィーユにとってかなり重要なものであるから、それには絶対に干渉しないようにしようと凛華は決めていた。彼の仕事に干渉するということは、この国に干渉することと同じなのだ。
それなのに、手に持ったそれを凝視してしまう。
『「預言された少女」のジェナムスティ引き渡しについて』
誰の文字なのかは分からないけれど、一番上の紙には堅苦しい文字でそう書かれていた。
宛名になっているのはセシアで、差出人の名前に見覚えはないが、押されている紋章はトーランドのものだった。
トーランドといえばアルフィーユと軍事同盟を結んでいる国の一つであり、アルフィーユとジェナムスティの戦争が始まれば援助するとの確約を交わしていたはずである。
その国からの案。
きっと一枚めくれば、その下には凛華をどのように引き渡すのか書き連ねてあるのだろう。
引き渡せば、それで戦争が終わるのだと思っているから。
「……」
凛華はそっと眉をひそめた。
確かに凛華がジェナムスティに行き、そして殺されることで、戦争が止められるのなら、それが最善の策なのかもしれない。それだけで止められるのだというのなら、凛華は今すぐにでもあの国に向かっている。勿論死ぬ気などないけれど。
けれど、それを、このように「引き渡し」として提案されるのは良い気分ではなかった。
まるで物扱いをされているようで、不愉快だ。
まるで、ほんの数年前の、自分のようで。
顔も知らぬトーランドの差出人に苛立ちを覚えた凛華は、それを見なかったことにした。
セシアがこれをどう扱うのか気にならないとは嘘になるが、怖くて続きを見ることはできなかった。
改めてそれを未決済の書類の束に置こうとする。
するとその時、一番下にあった紙が指の間をすり抜け、絨毯の上にひらりと落ちた。
「あっ」
いけない、と慌てて手を伸ばす。
凛華の履いているショートブーツのつま先部分を覆うようにして落ちた紙を拾い上げ、あ、と手を止める。
干渉しまいと思っていたのに、数行だけ書かれていた文章は、何度か見たことのあるセシアの文字だった。読みやすく、整った字。
この国の文字を凛華は日本語として読むことができる。それがどういう仕組みなのか未だによく分からないのだが、とにかく役に立つ能力ではある。先ほどのように嫌な文章を読んでしまうこともあるが、このときばかりは凛華はこの能力に感謝した。
凛華の顔が自然とほころぶ。
「……ありがと、セシア」
泣いてしまいそう。
嬉しくて少し気恥ずかしくて、幸せで。
立ち上がり、手にした紙を今度こそ束の上にきちんと置いて、凛華は未だ目覚めぬ恋人の頬にそっと唇を寄せた。きっとセシアが起きていたらこんなことは恥ずかしくてできない。唇にではないけれど、これが初めて自分からするキスだった。
自分からしたくせに頬が赤く染まる。かっかと火照る頬に手をあてて凛華はその場を離れた。
「リンカさま、どうかなさいましたか?」
扉を抜けた先で、騎士にそう声をかけられる。
「なっ、何でもない、です」
茹で蛸のようになっているだろう頬を隠し、凛華は騎士たちの視線を避けるようにして急いで歩き去った。
たん、たん、と幅広の階段を下り、本宮を抜け、自室のある塔へ向かう途中、凛華は立ち止まって振り返った。
セシアの執務室のあるあたりを見て、ありがとう、と囁く。
「……わたしは、物じゃない」
『人間は物ではない。
彼女は元よりどこの国に所属する者でもなく、一国の利益のために人間を物として引き渡すことなどあってはならない。
従ってアルフィーユはこの案には賛成しかねる。
――セシア・レリアス・アルフィーユ』
両親を亡くし、祖父をも亡くした時、数少ない親族は態度を豹変させた。
原因は遺産の相続だった。
祖父はその遺産のほとんどを凛華に相続させるのだと遺書を残しており、祖父の弁護士がその通りにした。
あの瞬間から、変わってしまったのだ。
叔父夫婦は憂さ晴らしのために、凛華を物のように扱い暴力を振るった。それまでは優しかった人たちが、金銭が関わった瞬間に牙を剥いた。それをこの目で見てきた。
人は簡単に変わってしまうのだ。
セシアだって、凛華を差し出すことで戦争が終わるならと、変わってしまう可能性だってなくはなかったのだ。
けれど、たった数行の、セシアの答え。
人は物ではないのだと、言ってくれた。
嬉しくて堪らなかった。
どうしてそんなにも優しくしてくれるのだろうと思う。
戦争を止めることと、一人の人間とを比べて。
セシアは、凛華を選んでくれた。
(わたしは物なんかじゃない)
ありがとう。
あなたのような人がいてくれて。
(……やっぱりセシアは、安心する)
ふっと笑顔を浮かべて凛華はまた歩き出した。
人間は物ではない。何かを得るために人の命を利用してはならない。そうしようとする国には一切応じない。
武力も経済力も豊かさを誇る大国アルフィーユの王として即位して三年経つが、未だ諸国には若造ととられがちなセシアであったが、その言葉が持つ力は大きかった。
持ち上がっていた凛華のジェナムスティ引き渡し案は、この言葉をきっかけにして数日後には跡形もなく消え去っていた。